「やらなきゃ」と思っているのに、気づいたらスマホをいじっている。
タスクリストを書くだけで安心して、結局手をつけないまま一日が終わる。
日曜の夜、「明日こそは」と決意するのに、月曜の昼にはもう同じことをやっている。
そんな自分にうんざりしていませんか。
はじめまして、桐山拓也と申します。
企業研修のファシリテーターとして独立して5年目になります。
「行動変容」と「習慣設計」をテーマに、年間60本ほどの研修プログラムを企画・運営しています。
偉そうに聞こえるかもしれませんが、実は僕自身、20代のほとんどを先延ばし癖に苦しんだ人間です。
メーカーの企画部門にいた10年間、何度「明日やろう」で乗り切ったかわかりません。
上司に「あの件どうなった?」と聞かれて冷や汗をかいた回数は、たぶん三桁にのぼります。
そんな僕が最近読んだ内藤誼人さんの新刊に、思わず膝を打ちました。
読み終えたとき、「ああ、先延ばしの正体ってこれだったのか」と腹落ちした感覚がありました。
これまで何十冊と行動力の本を読んできましたが、ここまで「自分のこと」として読めた本は初めてです。
今回は、この本を読んで僕が感じたことを、自分の体験も交えながらお伝えします。
同じ悩みを抱えている方に、少しでもヒントになれば嬉しいです。
先延ばしに悩んだ10年間の話
毎朝のタスクリストが夕方にはそのまま残る
会社員時代の僕の朝は、手帳にタスクを書き出すところから始まっていました。
「今日こそ企画書を仕上げる」「A社への見積もりを出す」「会議資料をまとめる」。
きれいにリスト化して、優先順位まで振って、赤ペンで重要マークまでつけて。
でも、夕方デスクを片付けるとき、朝のリストはほぼ手つかずのまま。
メールの返信やら雑務やら、「今すぐやらなくてもいいこと」ばかり先に片付けて、肝心のタスクには取りかかれない。
ひどいときには、デスクの整理を始めたり、文房具を買いに行ったり。
「仕事をしている気分」だけは味わえるけど、本当にやるべきことには一切手をつけていない。
そんな一日を何百回繰り返したか、正直数えたくもありません。
手帳だけは几帳面に書き込んでいたので、同僚には「しっかりしてるね」と言われていました。
実態はまるで逆だったんですが。
「意志が弱い」と自分を責め続けた日々
当時の僕は、先延ばしの原因を「自分の意志の弱さ」だと信じ込んでいました。
周りの同期はサクサク仕事を片付けているのに、なぜ自分だけ動けないのか。
きっと根性が足りないんだ、と。
自己啓発書もずいぶん読みました。
「朝5時に起きろ」「やる気が出なくてもやれ」「成功者は行動が速い」。
どれも正論なんですが、読んだ直後は少しやる気が出ても、3日もすれば元通り。
本棚には「すぐやる系」の本が10冊以上並んでいるのに、肝心の行動は何も変わっていないという皮肉な状況です。
一番つらかったのは、上司の評価面談で「桐山くんは企画のセンスはいいんだけど、スピード感がね」と言われたとき。
自分でもわかっている弱点を他人に指摘されると、胸に刺さります。
結局、「自分はダメなやつだ」という結論に着地して、また自己嫌悪のループに入る。
先延ばしの本当の怖さは、行動が遅れることそのものよりも、自分を責め続ける精神的なダメージにあると思います。
仕事のパフォーマンスだけじゃなく、自己肯定感まで削られていく。これが積み重なると、本当にきつい。
「先延ばしは性格じゃない」という発見
行動できない本当の原因はメンタル状態だった
『「すぐやる人」に変わる心理学』を手に取ったのは、書店でたまたま目に入ったからです。
正直、「また行動力の本か」と半信半疑でした。
でも、冒頭から引き込まれました。
内藤さんはこう書いています。先延ばしは性格のせいではない、と。
性格ではなく、そのときのメンタル状態や心理的なハードルが原因だというんです。
この一言で、僕の中で何かがほどけました。
「意志が弱い」と自分を責めていたのは、そもそも問題の立て方が間違っていた。
動けないのは「怠け者だから」ではなく、心理的な障壁が行動を阻んでいるだけ。
そう理解できたとき、10年分の自己嫌悪がすっと軽くなった気がしました。
心理学が解明した先延ばしのメカニズム
先延ばしの研究は、心理学の世界でかなり進んでいます。
カルガリー大学のピアーズ・スティール教授は、先延ばしを「期待」「価値」「時間」「衝動性」という4つの要素で説明する「時間的動機づけ理論」を提唱しました。
スティール教授の著書『ヒトはなぜ先延ばしをしてしまうのか』(CCCメディアハウス)は、この分野の入門書としても知られています。
簡単に言うと、人はこんなときに先延ばしをします。
- 「うまくいく」という期待が低いとき
- そのタスクに価値や面白さを感じられないとき
- 締め切りがまだ遠いとき
- 衝動性が高く、目の前の誘惑に流されやすいとき
また、オンラインカウンセリングのcotreeが公開しているプロクラスティネーションの解説記事でも、先延ばしは「回避行動」の一種であり、失敗への恐怖や完璧主義が根底にあると指摘されています。
内藤さんの本は、こうした学術的な知見をベースにしつつ、堅苦しさのない語り口で実践テクニックに落とし込んでいるのが魅力です。
研究論文を読む必要はありません。この本を開けば、先延ばしのメカニズムがすっと頭に入ってきます。
特に刺さった3つのポイント
「楽しくないこと」を面白くする発想の転換
本書の第2章「楽しくないことを面白くする」は、僕にとって一番の収穫でした。
先延ばしする仕事って、たいてい「やりたくない仕事」です。
報告書の作成、数字の集計、クレーム対応の準備。
やらなきゃいけないのはわかっているけど、気が進まない。
内藤さんは、この「気が進まない」を正面から受け止めたうえで、心理学的に「面白さ」を注入する方法を紹介しています。
| アプローチ | 具体例 |
|---|---|
| ゲーム化 | 「30分以内に終わらせる」とタイムアタックにする |
| 報酬設計 | タスク完了後に好きなコーヒーを飲むと決める |
| 難易度調整 | 大きなタスクを小さく分割して達成感を増やす |
僕も実際にタイムアタック方式を試してみました。
毎月の報告書作成がとにかく億劫だったんですが、スマホのタイマーを25分にセットして「この時間内に書き上げる」とゲーム感覚で取り組むようにしたところ、あれだけ嫌だった作業がちょっと楽しくなりました。
不思議なもので、タイマーが動いているだけで集中力のスイッチが入ります。
これはスティール教授の理論でいう「価値」を高める方法に当たります。
理論的な裏付けがあるとわかると、ただの小手先テクニックではなく、「科学的に効くんだ」と信じて取り組めます。
迷いを減らす意思決定の仕組み
第3章「迷わない自分に変える」も、会社員時代の自分に読ませたかった内容でした。
僕が先延ばしをしていた原因のひとつは、「迷い」です。
企画書をどう書くか、誰に先に相談するか、どのデータを使うか。
決めるべきことが多すぎて、考えているうちに時間が過ぎていく。
振り返ると、僕は「正解を出さないと動けない」タイプでした。
完璧な企画書を最初から書こうとして、構成を考え始めた段階でフリーズする。
「もう少し情報を集めてから」「もう少し考えてから」と言い訳をしているうちに、締め切りが目の前に迫っている。
本書では、意思決定のプロセスそのものを簡略化する心理テクニックが紹介されています。
- 選択肢をあらかじめ3つ以内に絞る
- 判断基準を事前に決めておく(「迷ったら顧客メリットが大きい方」など)
- 「80点で十分」と決めて完璧主義を手放す
どれも当たり前に聞こえるかもしれませんが、「なぜそれが有効なのか」を心理学の観点から説明されると、腹落ち感が違います。
納得できるから、実行に移しやすい。ここが他の行動力本との差だと感じました。
自分を動かす心理テクニックの実例
第6章「自分を動かす心理テクニック」には、すぐに試せる具体的な方法がたくさん載っています。
印象に残ったものをいくつか挙げます。
- 「まず5分だけやる」ルール。作業興奮という脳の仕組みを利用して、やり始めさえすれば自然に集中できる状態をつくる
- 環境を先に整えて、行動のハードルを物理的に下げる。たとえばスマホを別の部屋に置く、作業ファイルをデスクトップに出しておくなど
- 「やらない自分」ではなく「やり終えた後の自分」をイメージする。完了後の達成感や解放感を先取りすることで、着手のモチベーションを引き出す
特に「5分だけやる」は、僕も研修で受講者に勧めている方法です。
人間の脳は、いったん作業を始めるとドーパミンが分泌されて集中モードに入りやすい。
だから「5分だけ」のつもりで始めても、気づけば30分、1時間と続けられることが多い。
本書では、こうしたテクニックが「なぜ効くのか」を最新の研究データで裏付けているので、理屈っぽい人ほどハマると思います。
読んでから実際に変わったこと
企画書を翌日に持ち越さなくなった
本を読んだ直後から、僕は「5分ルール」と「環境設計」を意識的に取り入れました。
具体的にやったのは、翌日に取り組む仕事の準備を前日の夜に済ませておくこと。
パソコンに作業ファイルを開いた状態にしておく、参考資料を横に置いておく、使うツールのタブをブラウザに並べておく。
小さなことです。
でも、翌朝デスクに座った瞬間、すぐに作業に入れる状態ができている。
たったこれだけで、「取りかかるまでの心理的ハードル」がぐっと下がりました。
さらに「5分ルール」も組み合わせました。
朝一番、まず5分だけそのファイルに手をつける。中身はめちゃくちゃでもいい。
すると、本書に書いてあったとおり、5分経つ頃には不思議と集中モードに入っている。
以前なら半日かかっていた企画書が、午前中に初稿を仕上げられるようになった。
一度この成功体験をすると、次のタスクでも「とりあえず5分」が自然に出てくるようになります。
小さな成功が次の行動を引っ張ってくれる。この好循環は、一度回り出すと強いです。
研修で「行動のハードル」の話をするようになった
研修ファシリテーターとしても、この本の内容は大いに役立っています。
以前の僕の研修では、「目標設定」や「PDCAサイクル」といったフレームワークを中心に話していました。
でも、そもそも「わかっているけど動けない」人にフレームワークだけ教えても効果は薄い。
今は研修の冒頭で、先延ばしの心理メカニズムを簡単に紹介するようにしています。
「動けないのは性格のせいじゃない。メンタル状態と環境の問題です」と。
この前提を共有するだけで、受講者の表情が変わるんです。
安堵したような顔をする人が必ず何人かいます。
「自分だけじゃなかったんだ」「性格のせいじゃないなら、なんとかなるかもしれない」。
そういう空気が生まれると、そこから先の研修の吸収力がまるで違う。
行動変容の出発点は「自分を責めるのをやめること」だと、内藤さんの本を読んで改めて実感しました。
テクニック以前に、まず前提を変える。これが本書の一番大きな貢献だと思います。
こんな人に読んでほしい
先延ばしで自分を責めてしまう人
この本が最も響くのは、先延ばしをする自分に罪悪感を抱いている人です。
世の中の「行動力アップ」系の本には、「とにかくやれ」「考えるな、動け」というメッセージが多い。
でも、それで動けるなら最初から苦労しません。
内藤さんのアプローチは違います。
「動けないのには理由がある。その理由を理解すれば、対処法が見えてくる」。
責めるのではなく、メカニズムを理解して対策を立てる。
このスタンスが、過去の僕のように自分を追い詰めてしまう人にはありがたいはずです。
チームの行動力を上げたい管理職やリーダー
もうひとつ、管理職やチームリーダーにもおすすめします。
部下が締め切りを守れない、報告が遅い、指示を出しても動かない。
そんなとき、「やる気がないのか」と叱りたくなる気持ちはわかります。
でも、本書を読むと「動けない部下」の心理が少し見えてきます。
失敗を恐れている、タスクの優先順位がつけられない、完璧主義で着手できない。
原因がわかれば、声のかけ方も変わります。
「まず15分だけやってみて」「完璧じゃなくていいから、叩き台を出して」「わからないところはあとで一緒に考えよう」。
こうした具体的な声かけのヒントが、本書にはたくさん詰まっています。
実際、僕の研修でも「部下の先延ばしにどう対処すればいいか」という質問はよく出ます。
答えは意外とシンプルで、「怒る前に、なぜ動けないのかを一緒に考える」こと。
本書はその「なぜ」を理解するための、とてもわかりやすいガイドになってくれます。
まとめ
先延ばし癖は、「自分がダメだから」で片付けていい問題ではありません。
心理的なメカニズムを理解して、環境と仕組みを整えれば、誰でも「すぐやる人」に近づけます。
内藤誼人さんのこの本は、その道筋を心理学の知見で丁寧に示してくれる一冊です。
気になる方は『「すぐやる人」に変わる心理学』の詳細ページをチェックしてみてください。
「明日やろう」が口癖の方。
この本を読んだら、まず一つだけ、今日のうちに試してほしいです。
5分だけでいい。きっと、何かが変わり始めます。
最終更新日 2026年5月31日 by essall







